家の外に出ると日差しが強いと感じたけれども、空はうっすら白みがかり薄い雲が上空一面を覆っているようだった。福岡の天気は雨とあったが東京は晴れている。それを私は旅行の始まりとしては申し分ないと思いながら羽田へと向かった。
空港では高くそびえる電灯が等間隔で建ち並ぶのと合わせるように、幾台もの航空機が電灯に頭を向けてこれからの旅立ちを待機していた。そして搭乗口にはすっかり厚着が板につき始めた人々がやってきては席を埋め、前方にあるテレビを見たり、背後からやってくる動く歩道のアナウンスを聞き流したり、静かな売店に目を向けたりして過ごしていた。
私は寒さが強まる日々のおかげで風邪をひいて旅行を迎える羽目になったけれども、旅行中に風邪が悪化しないようロビーにいる乗客たち同様厚めに着込んでいた。すると空港内を急ぎ足で搭乗口まで歩いているうちにすっかり体温が上がり、搭乗を待つ椅子に座る頃には上着を脱ぐほどに暑く感じた。
私は電灯が一糸乱れぬ様子で並ぶのを眺めながら上着を一端脱ぎ、身体が元の温度に戻るのを方々から届くアナウンスを聞きながら、飛行機がの離陸が10分遅れることを知ったためにゆったりと待つことにした。
しばらくしてロビーの椅子が半分埋まる頃には身体の汗が引いて、私は今度は寒さを感じるようになった。そこで、一度脱いだ上着を着ようと袖に手を通すために視線を袖の垂れた位置まで落とした。すると再び窓の向こうに視線を戻した時に、ちょうど一台の航空機が目の前を通り過ぎていくのが見える。私はこのゆっくり直進する飛行機を見て、急に旅立ちへの興奮が呼び起こされた気がした。
そんな影響をじっと停まり続ける飛行機からは受けなかったことを当然のように思いながら、間近で動く飛行機の躍動感にすっかり感化され、私は数十分遅れで離陸した飛行機に乗ると雨の降る曇り空の福岡へと降り立った。
羽田よりグッと人の往来の少ない福岡空港は、どこか千歳空港に似ているように思われた。そして、その後天神に向かうために乗った地下鉄も、東京から着いたばかりの私には札幌の地下鉄のように空いているように感じるのだった。