西の空が夕焼けで明るんでいるというのに、そこから左右を経て東の空までは薄い筋をつくった雲が一面を覆っていた。ある雲は飛行機で描いたような直線で八の字をつくり、その向こうにうっすら望む富士山の八の姿と重なり、関東平野にいることを再確認する光景を見せてくれた。
そんな外の景色には無関心の我家の猫を家において散歩に出かけると、いつの間にか川沿いの葦が刈られ随分と見通しがよくなっていた。数メートルにまで成長していた葦は大いなる茂みをつくりワイルドであったけれども、今はバリカンで刈られたように跡形も無いのがあっけなくもあり、もの寂しいようでもあり。
そんなことを思いながら川沿いを歩いていると、どういうわけか刈り残された葦の茂みに、茶色のボディに白い毛の足をした猫が、その隙間をぬって入ろうとしている姿勢が見られた。ところが、猫のスリムな身体を入れる余地もないほど葦は生い茂っている。
パンパンと私が手を叩くと猫は土手上の私の方を振り返ったが、私が手を振って猫への挨拶を終える前に葦の茂みへと視線を戻し、その中へわけ入ろうと再び目論むのだった。
私はその猫を後に目の前にかかる橋を渡って川の反対側の土手を歩き始めた。随分前にこちら側でも猫が葦の茂みの中へと入りゆくのを見たことを思い出した。その時も夕暮れだった。
夕暮れは猫を茂みへと誘うのかも知れない。