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2011年8月20日土曜日

バラ園の猫

サルスベリくらいしか咲いていないだろうとあまり期待せずに神大植物園の門をくぐると、サルスベリの咲く池のほとりを過ぎた頃に、右手の方からバラらしい花の香りが漂ってきて、春に見に来たバラ園のイメージが途端に頭に蘇った。そして私の歩みは自然にバラ園の方へと向かっていった。

一気に涼しくなったバラ園では色とりどりの花が、生い茂るように伸びる茎や葉をかいくぐって空へ伸びる空間へと顔を出していた。よく見ると春の見頃のバラに比べて花々にみずみずしさはなく、喉を乾かしたように咲いているけれども、それでもバラ園は華やかだった。

そんなバラ園の道を、ずんぐりむっくりした茶色の猫がとぼりとぼりと噴水の方に向かって歩いていった。私はその光景を、小高いところにあるテラスから眺めていた。人が少ないこともあって、他の誰にも気づかれることなく猫は我道を進んでいき、やがて私の視界から消えていった。

私はその後それぞれのバラを見て歩こうと、先程猫が歩いていた道へとテラスから下りた。するとやはり猫はいない。水分の足りない状態のバラを数多く確認しながらも猫の足取りを探すけれども、噴水の方にもやはり猫は見当たらない。

神代植物園に入園する前に、入口前のベンチで三毛猫と白黒猫の二匹の猫を見かけ、バラ園でも見かけ、今日は随分猫と縁があると思っていたのも束の間だった。私は猫とバラの世界を行きつ戻りつしていたけれども、結局バラの世界へと戻ることになったのかと、どこか物足りなさを感じた。

神代植物園のなかは、外に比べて涼しかった。その涼しさは過ごしやすさとなり、緑のありがたさをつくづく実感させられ、ベランダガーデンでもやった方がいいのかと考えてみた。遠目で美しかったバラが目の前では萎れかかっているのを、そんなことを考えながら眺めていると、徐々に私の興味はバラよりも入園前に見た猫へと移っていった。

私はそのままバラ園を終え、蓮の展示をほんの少し見学してから入ってきたところから園外へと出て、二匹の猫がまだいるか見てみた。しかし、猫たちは移動してしまった後だった。そして私はやはり猫との縁も終わっていたかと残念に思い、仕方がないとバスを待つことにした。

つつじヶ丘行きのバスが来て、三鷹行きのバスが来て、10分くらい待ってようやく私の乗る調布行きのバスが来た。数人しか乗客のいないバスに乗り込むと、バスは隣の深大寺の停留所へと向かった。門前町の雰囲気が残る通り沿いでは水車がまわり、蕎麦屋が建っている。そして、そのなかの一軒の蕎麦屋さんの軒先で、3匹の猫がゴハンをもらう姿が私の目に入ってきた。やはり今日は猫と縁がある。

涼しいせいか、どの猫も元気そうだった。