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2011年8月22日月曜日

あがたの森公園の方

旧制高等学校記念館の周囲はあがたの森公園となっている。とても整備の行き届いた公園内の池の畔では夏らしくサルスベリが咲き、周囲の黒っぽい岩を照らしていた。このやや和風の庭園は杉や松が多く生え、程良く人工的で程良く鬱蒼としている。


久しぶりにそんな公園を楽しもうと歩いていると、松本駅から自転車を走らせている途中で降り始めた雨がどんどん強くなってきた。昨日の観光より今日はこの雨に手こずりそうだと私は眉をしかめて急ぎ足で池のそばにある屋根付き休憩所に入り雨宿りすることとし、そこには同じく雨に追われるように入ってきた先客の親子連れがいた。

母と娘の親子連れは大人しげに数分雨宿りした後、再び傘をさしたかと思うと池に近づいていった。そして、楽しそうな声を上げて池のコイにパン屑をあげ始めた。4歳くらいの女の子は、群がってくるコイが楽しいらしく、ビニール袋からどんどんパン屑を拾いだしては池に投げ入れることを繰り返した。

すると、30メートルほど離れたところの木陰から、4羽のカモが急ぎ足で出てくるのに私は気づいた。カモたちはすぐそばの頭上に咲くサルスベリのピンク色の花に眼を向けることもなく、雨をものともしない様子だったので、私はずいぶん勇敢なものだと彼らに興味をもったのもつかの間、カモたちは足のヒレを駆使してスイスイ前進したかと思うと、パン屑に群がるコイの中に分け入ってパンを求め始めるのだった。

あれだけ離れていたのに鼻がきくんだなと、カモの勇敢さではなく五感の能力に感心して、それもこれも食い意地のためかと思いながらカモを眺めていたが、もうパン屑は降ってこない。女の子と母親は、パン屑の入ったビニール袋が空になり、つい先ほど池を離れていったのだ。池には亀もいて、カモはコイよりも亀にぶつからないようにより注意を払って泳ぎながらパンを待っているけれども、パンの収穫は望めないものとなった。

この間もずっと雨は降り続く。昨日東京を発つ時からこのどんよりと暗く低く立ちこめる雨雲が流れ去っては来、流れ去っては来るので、もう永遠にこのまま雨雲から逃れられないのではないかと私は思った。

と、おもむろにハトが一羽池を縁取るように置かれた石を飛び降りながら、池に落ちきらないで橋の上に残ったままのパンをついばみにやってきた。そしてハトはパンを食い散らかしながら意図せずして池にパン屑のかけらを落とし入れた。するとコイとカモは凄まじい生存競争を見せつけるように一斉に小さなパンのかけらに飛びかかり、無我夢中でパンを手に入れようとするのだった。

とは言えハトがついばむパンも直ぐになくなる。コイもカモも、もうなにもなくなったことに気づくと、起用にヒレを使いながら程なくして退散していった。あれだけパンを奪い合いながらも流血の惨事に至らないことが、とても平和な生き物たちだと私には思えた。

その間もサルスベリは雨のなかずっと位置を変えずに石を照らし、もうしばらくして、私の不安をよそにようやく雨はやんでいった。