それでも園内は都会の公園らしく、園内にあるステージに上がって芸を披露する芸人志望らしき若者とそれを取り囲む数人のさらに若い子たちがいる(若いので帽子などはかぶってない)。縦横1メートル以上はあろうかという大きなキャンパスに絵の具を塗り付けるおじいさんに、どんな絵を描いているのか見ようと自転車の速度を限界ぎりぎりまで落として忍び寄る若い子もいる。時に親子連れの集団が通ると突然子供が奇声をあげ、それをいちいちかまってられないと無視するお母さんがベビーカーを押していたりして、いたって平和である。
そんな井の頭公園の中で最初に入ったのは自然動物園の分園なのだが、そこで初めに出会ったのは柵の向こうにいるたくさんの種類のカモたちだ。この柵は、カモにどれくらい近づけるかなどの、ある種の好奇心を私から前もってそぎ落とす効果をもっていてつまらないのだが、動物園のルールに従いこの距離感を保ってずっと見続ける。
三分の二以上のカモは首を後ろにまわして毛のないくちばしを寒さから守るべく羽の中にもぐり込ませて眠っている。そしてその隣では、柵の中に設けられた池に入り長いくちばしで突っつき合っているカモたちがいる。顔の大きさからしてとても長く見えるそのくちばしは、その後行った水生動物園にいたような、ヒョロ長い魚を食べるのには確かに都合がいい。そしてなにより魚も随分機敏に動くがカモたちもとても身軽で機敏に動く。このくちばしにこの運動能力なら狩りもできるだろう。
ただ、彼らの目をじっと見ていても、なにを考えているのかさっぱりわからないのが残念だった。
その後行った本園には私の大好きなヤマネコがいる。向かし我が家には、はこ、という猫がいたが、はこはしっぽが太くてモコモコの毛並みでヤマネコそっくりだった。ただ井の頭公園にいるヤマネコの方が1、5倍くらいあるように見えるし、なにより動きが違う。ヤマネコは動き始めるとイエネコよりずっと流線型であることがわかる。新幹線N700系のようなのだ。そして弾力のある足でタッタッタッタッスルスルっと右へ左へ飛び移っていくのだが、その蛇のような動きが野生的で、イエネコとは違う生き物なのだとつくづく思う。これが天敵の多い世界で生き抜く姿なのかと納得する。
今回はとても面白い光景を目にする。
死んだように弛緩してリラックスしながら頭を落として寝ているベンガルヤマネコがいるのだが、それを心配しているのか、隣の柵越しにずっとそばを行ったり来たりしているツシマヤマネコがいる。10分後くらいにもう一度来ても、やはり同じ状態のままだ。30分後にもう一度来ると、さすがにあのスタイルで寝るのをやめて、ベンガルヤマネコは姿を消していた。ツシマヤマネコも無防備なベンガルヤマネコがいなくなり、パトロールのやり甲斐がなくなったようで、草を食べていた。柵越しにも何かと交流があるらしい動物園のヤマネコの世界だった。
こんなふうに寝ているベンガルヤマネコ
隣のヤマネコがいなくなって草を食べるツシマヤマネコ