半開きの窓の向こうは黒い空間で、そのずっと奥にマンションの階段灯が規則正しく灯り、居酒屋の赤いネオンが光り、その手前の下の方では街灯の白い光が虫を集めてる。あっちからもこっちからも虫の鳴き声が響いて人間社会から連れだされていく感じがするけれども、扉の奥にしっかりおさまって眠りにつく人間たちを虫たちは不自由な生き物と思ってるかも知れない。
あの小さい虫たちは夜の涼しさと昼間の暑さをどう乗り切っているのだろうと思うと、乗り切るもなにも、人間よりずっとずっと寿命の短い虫は大昔の人のように繁殖を終えると死んでいくのが普通なのかと気づいた。
ものすごい勢いで開発が進む自動車に一瞬にして踏み潰されて終わる命は、そんな車の開発に負けない繁殖スピードを持ち、脳をどんなに拡大させても人間はゴキブリの恐怖に怯える。どうせ脳を拡大させるなら、ゴキブリを怖いと思わない脳に進化すればいいのに。でもそれに脳が対応しないのは、ゴキブリが命を奪うわけではないからかも。
神社の鳥居をくぐるような何かがその辺にあれば面白いのに。窓越しに見る夜の空間は、時折聞こえる車の通る音とどこかで誰かが遊んでる花火の音が静寂を破るというほどでもない変化をもたらし、その変化が、一日中カーテンを閉めていても夜が来たことを教えてくれるだろう。
虫たちのバイオリズムがそんな夜を征服するよう進化していっているなら、いつかこの半開きの窓を突き破って箱部屋に押し入ってくるのかも知れない。その時、猫といるような喜びをもてればいいのに。