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2011年11月2日水曜日

佐賀バルーンフェスタより

伊万里のホテルといい、佐賀駅前のホテルといい、部屋のカップが磁器なもので、コーヒーを入れて飲むのが一際おいしく感じた。焼き物目当ての観光客には嬉しいはからいである。そして、そんなはからいに胸を胸をときめかせながら、私はバルーンフェスタの初日を待ちわびた。

フェスタの始まる前日の夜は、駅前から延びる大通りでパレードがあった。佐賀駅まで来たものの夜は特にやることもないので、私も18時から始まるそのパレードを見に行くことにした。人口24万人の町を盛り上げる盛大な催しである。

ボーイスカウトやら消防署やらの鼓笛隊の演奏と共に、バルーンを上げる炎をつくる設備を載せた車が走り、夜空に向かってボーボーと炎を噴き出しながら観客らの歓声を呼んでいた。私は10メートルくらい離れたところで炎が上がるのを見ていたのだけれども、これだけ離れていても炎の熱がこんなに熱く感じられるものかと、バルーンを上げる競技者の忍耐に驚いてしまった。

一人この地を訪れた観光客の私がそうしている一方では、地元の子供が鼓笛隊で演奏中の友達か兄弟姉妹のところに駆け寄り携帯の画面を見せていた。自分が撮った画像を見せたくて終わるのを待ちきれないのだろう。その様子はまるで演奏者以上の白熱ぶりだった。

他にもパレードに参列している人と観客たちのなかにこうした光景が見られ、ホンダなどの大手資本の名前が目立つ中でも地元の人々に楽しまれている祭りであることに、大手資本の社会貢献を垣間見られた気がしてちょっとほっとした。

前夜祭のパレードは佐賀銀行本店前で終わり、翌朝の7時からは佐賀駅から程近い嘉瀬川河川敷で一回目のバルーン競技が始まる。


私はそれを、宿泊する佐賀駅前のホテルの窓からでも見られるようにと、バルーンフェスタが見える眺めのいい部屋をホテル側に頼んでおいた。しかし、フロントの人は、一応見えやすい部屋を用意したがホテル側にバルーンが飛んで来ないと見えないだろうと言う。と言うことは、やはり早起きして河川敷まで行かないと見えないということかと、早起きを億劫に思っていた私はやや気が重くなった。

ところが、朝起きてみると、6時にセットした目覚ましを聞き逃したようで、気づいた時には6時半を過ぎていた。これではもう7時の開始時間には間に合わない。そこで、ゆっくり朝食を食べてから部屋へ戻り、15時からも競技があるのでそれを見に行けばいいと開き直って、ベッドに寝転んで二度寝でもして疲れをとろうとうとうとしていた。

するとしばらくして、窓の向こう側からボーボーっという前夜のパレードで聞いた炎を噴く音が聞こえてくるではないか。この静かな町佐賀で、あまりにものものしいぞと窓の外を見ると、いくつものバルーンが河川敷から2駅ほど離れた佐賀駅まで飛んできた音なのだった。それに気づいた時は、すっかり眠気が消えて胸が躍った。

ビルの上にフワッと浮くように空のなかに佇む幾多ものバルーンは、ホテルの窓からは競技者の姿は望めず、あたかもそれだけが人の手によらず存在しているようだった。それも、バルーンに合図でも送るようにゴロゴロと轟き音を響かせながら巡回してくるヘリコプターがやってくると、バルーンたちは渡り鳥の大移動のようにゆらゆら河川敷の方に戻っていくので、やはり統制のとられた競技なのだとその後実感するのだけれども、いかにも不思議な存在感だった。

しかしその後、そんな夢見心地な幻想の世界を打ち破る出来事に見舞われることを、このときの私はまだ知らない。

私はバルーンが近づいてきて河川敷に戻っていくまでの一時間半ほどをずっと窓辺で眺めていた。そしてその間のほとんどをバルーンのいる上空や河川敷、そしてその向こうに連なる小高い山の稜線を眺めていた。しかし、小学生の一行がホテルの下の歩道をガヤガヤと通り行く声に耳を取られてふと下を向いたとき、初めてホテルの9階の高さに気づき、そこから窓を開けて身を乗り出してバルーンを眺めていることが急に恐ろしくなった。そして心拍数が上がるのを感じた。

それでも私は気を取り直して脳の中で知らぬが仏作戦を実行し、ここが9階の高さであることをしばし忘れることにして、再度窓から、今度は遠慮がちではあるけれども身を乗り出してバルーンを目で追い続けた。

上空で不思議な存在感を放つバルーンをスリル満点の高層階から眺めるという貴重な体験ができた佐賀は、焼き物にプラスしてとても楽しい思い出となった。

前夜祭のパレード
炎が上がる

パンダも乗っている
炎に着ぐるみ、さぞ暑かろうて

翌朝のバルーン競技の様子
ビル街まで飛んできた

河川敷の方

どんどん河川敷にバルーンが戻っていく

オフィス街ではまだこうしてバルーンが
中央右のバルーンから炎が出ている

拡大してみるとこう

競技が終わる9時頃の河川敷上空
バルーンがいっぱい