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2011年11月23日水曜日

古美術店より

最近陶磁器に興味を持つようになったと母に話すと、そういうものは新品を買うより古道具屋とかに行って買うといいとのアドバイスを受けた。もともと城下町だったところなどにある古美術店などには、地元の名家などが手放した掘り出し物があるからとの理由である。

私は先日津和野に出かけたのだが、母のその言葉はまさに当たっていた。

津和野駅から津和野大橋までには一つ古美術喫茶を見つけ、窓から店内を覗いてみるとおじさまおばさまたちが歓談している姿に私は敷居の高さを感じて結局入らなかったけれども、入り口のショーケースに並べられた食器の数々は、これはきっと伊万里だろう、あれはなかなかいいがどこのだろうなどと、見ていてとても楽しいものがあった。

店内にはもっとたくさんのコーヒーカップがあるようなので、閉店が17時でなければ勇気を振り絞って立ち寄りたかったものである。

こうして悔いを残しながらさらに歩いて津和野大橋を渡ると、このあたりから観光客がぐっと減るエリアになるのだが、一軒の古美術店を見つけた。店内には誰もおらず、つい最近陶磁器に興味をもつようになったばかりの私はこの手の店に入ったこともないので、ここでも敷居の高さを感じたけれども、二度も悔いを残したくないのでガラガラッと扉を開けて店のなかへ入ってみた。


ここにも伊万里と思われる食器がたくさん置いてあり、値段を見ると、買えなくはない、でも割ってしまうかもしれないものにまだここまでは出せない、という感想をもった。そして結局ウィンドウショッピングすることに。


そうして見ていると、店主のおじさんが中から出てきて挨拶してきた。そしておじさんは、脇のほうにあるパイプ椅子に腰を下ろした。私はなにがどれだけ価値あるのかなどよくわからないまま、ついている値札から価値を予想して見てまわるが、う~ん、これが母が言っていた旧城下町の誰かが手放した名品の数々なのかと頷いていた。


すると、16時半になったとたんに壁に掛けられた無数の振り子時計がボーンボーンと微妙にタイミングをずらしながらそれぞれ鳴り始め、私は何事かと驚いた。店内のこの不気味なムードに戸惑った私が店主の方を見ると、店主にとっては毎時のことなので、振り子の音は気にせず転寝を続けていた。そりゃそうか。


一通り見たところで店を出た私は、この怪しげな古美術店の雰囲気にいまひとつ慣れることが最後までできなかった。いい食器を買うには、まずこの雰囲気に慣れねばなるまい。古美術店に場慣れして、店主と値引き合戦をした後、いつの日か私もなにがしかの陶磁器を手に入れられるのだろう。