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2010年12月2日木曜日

トゥーランドット

2009年メトロポリタン歌劇場にて上演の『トゥーランドット』(NHKで放送)より。

メトの誇りのように豪奢な『トゥーランドット』はプッチーニが手がけた紫禁城が舞台のオペラであるが、お城が舞台なだけあって、2009年のこの時も常に人が舞う豪華な舞台だった。

求婚者に三つの謎解きをさせ、解ければ結婚、解けなければ打首にする仕方で何人、いや何十人(あるいは何百人)という男を死に至らしめてはそれを先祖の復讐とする、不毛といえなくもない生活を続ける中国のお姫様トゥーランドット。この日もペルシアの王子が広場で打首になるのだが、それを見にやってきたトゥーランドットに案の定一目惚れして我こそは謎を解いてみせるという男が現れる。その男はある国の王子カラフで、その後見事にトゥーランドットが提示する三つの謎を解いてみせるのだが、次はカラフがトゥーランドットに自分の名を当ててごらんなさいと逆に謎解きの勝負に出る。結婚するだしないだをめぐって、やることに事欠くお城の世界独特のペースでなぞなぞゲームが続く。

この物語には王子の召使でリューという女が出てくるが、彼女はとても自己犠牲的で、この物語でいうところの愛の結晶のような人だ。彼女はトゥーランドットの無慈悲な無茶ぶりを遺憾なく際立たせる役割を果たしている。そして観客の同情はすっかりリューに行ってしまう。この公演でトゥーランドット役だった歌手は、この役は観客に愛されないのが辛いと言っていた。確かにトゥーランドットは蝶々夫人のような同情をひくキャラではない。最後改心するものの、おいしいところはすべてリューが演じてしまうという、主人公が悪役のちょっと珍しい展開のなかでの主役である。

でもなんのこっちゃない、すっかり心が荒んでいるとはいえ王子カラフはトゥーランドットの美しさにイチコロなのだから話は早い。というより単純だ。しかも三つの謎の最後が「氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすものは」で、答えが「トゥーランドット」とは、もう誰もついていけない。これはまったくもって恋という病におかされた二人にしか成り立たない質疑応答ではないか。18世紀に出版された『千一日物語(この元になっている話は更に古く12世紀にできたものらしい)』を元にした話とはいえ、観客の心をつかめないのも頷ける。

だが、ここでこのような謎解きが出てくるあたり、冷酷無悲なトゥーランドットは、実はものすごく人に愛されることを望んでいて、その人と結婚したいとの願望が強い人なんだという、愛に飢えたお姫様との人物像が浮き出てくるように私は思う。ただ、トゥーランドットの美しさに惚れ込むところから入っていって、必死に謎を解いて(トゥーランドットに目が眩んでるから解けた謎だが)なんとかトゥーランドットにも愛されようとする王子カラフの自信満々ぶりに、私はとてもついていけなかった。

この分かりきった展開、プライドとプライドの戦い、謎を解いた解かないで勝った負けたと互いに連呼する二人に、どう見ていればいいものかと頭を抱えそうになったが、第三幕で出てくるあの名曲は素晴らしかった(荒川静香が金メダルをとった時の曲)。このオペラはどちらかというと物語より音楽を重視して観るほうが楽しめる作品ではないかと個人的には思えた。

オペラはなによりお金がかかる。オーケストラに歌手、ダンサー、エキストラ、舞台装置ときりがない。最近の舞台は簡素化したものが目立つが、今後オペラの舞台がどうなっていくのか気になるところだ。