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2010年12月5日日曜日

旧古河庭園から六義園へ

駒込駅に着いたのは14時ちょうど。15分前までにお越しくださいと言われた旧古河邸本館ガイドは14時30分スタートだ。なんとか遅れないようにと霜降橋の交差点を急ぎ足で渡ると、最高気温が20度のこの日の陽気ではすっかり身体が温まりコートを脱ぎたくなる。そしてコートを脱いだ頃にようやく旧古河庭園に着く。つい先頃まで30年間ほど野放しだった旧古河邸は、窓ガラスが割られ本や食器が盗まれ放題の無法地帯だったそうだが、復旧に復旧を重ねて従来の姿が蘇り、現在はカフェとしても使われ日に三度一般公開されるに至った。

旧古河邸は親日家で知られるジョサイア・コンドルの晩年の設計で、洋館のなかに和室があるという珍しい建築だ。同じくコンドル設計の旧岩崎邸に比べるととても簡素であるが、二階へ上がる階段の手摺が手にすいついてくる感じでピッタリフィットする出来具合は老齢に至った彼の優しさがつくりだしたのかと思われるほど秀逸だった。30名ほどのお客さん達はガイドに耳を傾けながら、南側の部屋では日差しがあるために暖か過ぎて上着を脱ぎ、グッと冷え込む北側の部屋では上着を着直し、首を立てに振ったり横に振ったり、趣向を凝らした館内を細部に至るまで見入って一時間を過ごした。

本邸ガイドが終わると、邸の窓から眺められるようにつくられたというバラ園に行ってみた。今はもう花は剪定されて棘が指に食い込むばかりだけれども、バラの香りがほのかに漂っている。このバラの香りは洋館のイメージとピッタリだ。そんなバラ園を抜け、ツツジの木々を越えて日本庭園まで下り、石段を転ばないよう注意して歩いていると、枯葉の中から人の足音よりずっと軽く小さな足音を見つけた。きっと猫だ。足音からして大きめの猫だろう。抜き足差し足の歩みは途中で止まり、クシャクシャッととぐろを巻いて休むように止まった。きっと保護色でその場所が休むにはちょうど良いのだろう。

その後強い風で池が波打ち枯れ葉が集まってくるのを横に、茶屋の静けさを過ぎて本邸の方へと再び上って秋の旧古河庭園を立ち去った。そして駒込駅の反対側にある六義園へ。

四時を過ぎても真昼のぬくもり残る六義園は、まだまだ人の入りが絶える様子がなく、何かいつもと違う。

門を抜けてしばらくはどの人も同じ方向へ歩いて行き、あるところで人の流れが左右へとパッと広がっていく。そして「うわ~っ」と歓声があがる。歓声の上では無数のカラスがカーカー鳴いているのだが、ここのカラスは下へは降りて来ないようで、誰もカラスの群れを気にする様子もなく、池の向こうの中の島の景色に目を奪われているようだ。木々の並びや船着場の風情など、どの方角から見ても素晴らしいという中の島だけあって、周囲に点在するベンチに座ろうと思っても、どこも空いているところがなかった。頭上をカラスが旋回して騒いでいるところで人々がベンチに座りくつろいでいるとは、六義園ならではの姿だろう。そんな六義園を堪能すべく、しばしば外国語の会話が耳に入ってくるのを聞きながら池の周囲を歩いていると、これから暗くなる一方の園内がパッと明るくなった。紅葉のライトアップだ。

ベンチに座る人々、カメラのシャッターを切る人々はこれを待っていたようだ。上から注がれる太陽光とは違う下からのライトアップは木々の姿を別の印象に照らし出し、もう一つの楽しみ方を提供してくれるらしい。そんなことを考えつくなんて人間もなかなかだと、辺り一面に甘い臭みを充満させる銀杏の実を踏みしめながらまだほんのわずかだけれども太陽光が感じられるところで、私が経験する初めての紅葉のライトアップを後にした。