『永遠のヒロイン・その愛と素顔』でイングリッド・バーグマンを見た。女優として生きることにこだわりの強い人だとは本で読んだことがあったが、この番組で見たバーグマンはちょっと可愛かった。
最後の出演作となった『秋のソナタ』では、二人の娘を顧みない身勝手なピアニストの母親役を演じ、とうとう自分自身を演じるようになったのかと周囲に聞かれたらしいが、自分と似ているとは全く思わないバーグマン。撮影中は、監督のベルイマンとものすごい口論が続き、現場は騒然としていたらしい。当時62歳のバーグマンは60歳だったベルイマンにセリフや演出が納得行かないと食って掛かる。ベルイマン曰く、不思議なことにバーグマンが役柄を理解出来ないとひどく食い下がってくるところほど、バーグマン自身に似ているところらしい。
3歳で母を、13歳で父を亡くし、空想の世界で楽しむことを覚えた子供時代のバーグマン。自分の心に足りないなにかを埋めるべく、そのエネルギーがすべて女優業へと向かっていったのではないかと思えるような演じることへの執念は、心を打たれるものがあった。
そして仕事が休みの束の間を4人の子供たちと島で過ごしてまた仕事に戻っていくバーグマンに、やはり『秋のソナタ』の母親役が重なって見えた。最初の娘と夫を残してイタリアのロッセリーニ監督のところに渡った後、娘に、母をそれほど愛してないので気になりません、との発言をされても、母の愛はそれ以上に深いものとどこまで行っても自己肯定的なところがバーグマンらしかった。