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2011年2月18日金曜日

旭川~帯広まで 氷瀑祭り

旭川から層雲峡へ向かう道は真冬だというのに、果てしなく向こうに見える稜線の雪景色や道路脇の田畑に積もる雪とは似あわず、アスファルトがまっすぐに顔を見せている。このすっかり行き届いた除雪のお陰で車はいたって順調に進み、一時間ほどで無事層雲峡へと来ることができた。

おしゃべりな母の話をそれまでBGMのように聞き流しながら呑気に乗車していた私は、それまでと何か違うものが視界の隅に入ってくることに気づいた。そして一気にその違和感の方へ目を向けると、北海道で生まれ育った私がもう何度も見ているはずの層雲峡の剥き出しの岩肌が、真冬の冷たい温度のまま冷たい姿を現し、そこには細い木がポツンポツンと生えているのが見える。どこにでも栄養があり、どこからでも植物が生えることを教えてくれるその姿に関心と勇気が湧いてすっかりその光景に目を奪われているうちに、氷瀑祭りの会場が現れた。

氷瀑入り口

上から氷柱が、、、

目の前を川が流れている

幻想の世界

神社もあった

猫の氷像

ところがうわさではよく聞くものの、遠目で見ると巨大な氷の塊の上に中途半端に雪が積もって大した雪像には見えない。そして数人しか観光客の姿も見えない。あれだけ旅行代理店などで宣伝されている氷瀑祭りとはこんなものかとやや期待はずれではあった。それでも一度は身近で見てみようと駐車場に車を停めてあまりワクワクすることなく雪像のそばまで行ってみれば、なにやら巨大氷りの中に入れるようになっている。当然のように中に入る私は、一度落ち込んだ早すぎた評価が急浮上するのを感じた。この頭上から降りる鍾乳石のような氷柱はなんだ。どうやってこれを造ったのかと驚く氷の鍾乳洞が、数百メートル続いているではないか。それは一時の幻想の世界だった。その隣には本当にかまくらのような氷のお家がいくつもあって、中には氷のオブジェがある。そして私はついつい猫のオブジェを撮ってきてしまった。
三国峠

その後この日の宿泊予定の幌加温泉へ向かうべく国道273号線を走って三国峠に入るのだが、眼下の樹海は地面の雪が見えるためか、緑深い季節の頃より飲み込まれるような恐ろしさはなかった。同じ真冬の風物詩でも、層雲峡とは違う効果をもたらしたようだ。
三国峠からの眺め





チェックインにはまだ早いので、幌加温泉を越えてその後も国道273号線を上士幌へと車を走らせるのだが、道路はその後も見事なアスファルトの世界でとても走りやすかった。道の両脇には白樺が葉をすっかり落としてはいるものの、VIPが通るレッドカーペットのようにどこまでも目的地まで私たちを導いてくれるように長々と林立しているのが、本当に導かれているようで、まっすぐ向こうに山頂が望む山が私を呼んでいるように感じる。そんな時、タウシュベツ川棟梁展望所への矢印が見え現実世界へ引き戻された。道路から歩いて180メートルほどのところにある展望所からは、確かに橋が見える。しかしこの橋は、糠平湖の水位が上がると見えなくなるという。確かにそれでは使いものにならないだろう。
国道273号線

白樺林

私は国道から展望所までの180メートルの獣道が楽しかった。鳥たちが群をなすようにあっちへこっちへと舞い、私をからかっているのか遊んでくれているのか何かを訴えているのか、都会の騒音ですっかり聴力の衰えた私の耳には物音のないように聞こえるこの自然のなかで、その美しい声を響かせていた。それはとても美しく、どんな美しい音色の楽器でも太刀打ちできるものではなかった。木々の隙間をぬってできているあちこちに広がる鹿の足跡を見ても、私が太刀打ちできるものではないとつくづく思わせられた。せいぜい私はそんな動物たちに感嘆し、動物園の動物とは違うことに今更のように驚き、その新鮮さに喜び、熊出没注意と看板が出ていても、私の目の前に熊がいない幸運の中で、丸だしの野生を満喫するだけだった。
タウシュベツ川棟梁展望所から

中央右に橋が残る

こんな中を歩いていく

実はここにたくさん鳥がいる

こんな巨木もある

あまり知られていないことかもしれないが、上川から上士幌まではガゾリンスタンドが一つもない。なので上士幌のガソリンスタンドまで走るガソリンが入っているか、当然注意が必要である。だが、上川の最後のスタンドには上士幌までガソリンスタンドこの先なしとの小さな看板が出ているので注意して見てもらいたい。僻地だけあって、こういうことに関しては親切だ。

士幌に着くと、帯広まで三十数キロとの看板が信号機の下に出てくるようになる。すると帯広に一度も行ったことがないという母が突然、ここまで来たなら帯広まで行きたいと言い出す。運転するのはペーパードライバーの私ではなく雪道に慣れた母なので、老体に自らむち打つ母を止める理由はない。そして私たちは急遽国道241号線に入り、帯広へと向かうこととなった。

十勝平野では畑が一面に広がっている。上川盆地より比較的温暖で雪も少ないところだ。国道241号線から見える畑には、十勝平野独特の黒い土の上に雪がまばらに残るだけで、上川盆地のような、全面を雪が覆っている景色はない。その中で豆腐を売っているある農家を見つけた。車を停めてお店に入ってみると、奥からおじいさんが出てきてくれる。豆乳を飲みたくなったため、豆乳はあるか聞いて見るもないという。そこで豆腐を一丁購入した。大雪工房というこの農家では、自家生産の大振袖大豆を使用した豆腐を600グラム370円で売っている。他にも味噌や油揚げ、他品種の豆などが売られていたが、私たちはこの巨大豆腐一丁だけを購入し、きっとここで穫れた大豆であろう周囲の畑を親しみを込めて眺めながら、早速食してみた。あっさりしているのに歯ごたえのある、昔懐かしい豆腐の味だった。
多分豆畑(だと勝手に思っている)

中には豆腐が入っている


その後しばらく車を走らせると、一面畑のなかにポツンとある恐らく小学校のグラウンドだと思うが、話によく聞く手作りスケートリンクを見つけた。けれども子供たちは授業中のためか、誰も滑っていない。
グラウンドのスケートリンク

その後音更町に入り、十勝川温泉の看板があちこちに見えはじめ、車疲れが見えてきた母と私はどこか温泉に入ることにした。そこで「HO」という北海道情報誌の無料で入れる温泉クーポンに十勝川温泉で唯一あった、『はにうの宿』に行くことにした。
はにうの宿

国道からそれて若干わかりにくいところにあるが、何とか到着。ph8以上の弱アルカリの温泉で、植物性腐食質などの有機物が多く含まれているとの説明のあるモール泉だ(あまりよくわかってない)。この琥珀色のお湯は湯船に大小の湯の花が舞い、入ってしばらくすると血行がよくなって体が楽になってくる。しばらく入って汗が出てきてしばらくしたところでこの後のことを考え、もっと入っていたかったが早めに出ることにした。ほっと一息つける良い湯だった。10くらいある洗い場がわりとずっと埋まっていたのを見ると、広さの割には混んでいるのかもしれないが、湯船は十分広くてリラックスするには文句ないと思う。

その後母の念願叶って帯広に着く頃には、雪というより雨が降ってきた。私たちは雨を逃れるように柳月というお菓子屋さんに入ったのだが、ここは母がススメる帯広本店のお菓子屋さんである。帯広というと六花亭が有名だが、柳月はどういうところなのか、私も興味をもち本店に入ってみた。
帯広の柳月本店

店内に並ぶお菓子の数々は、確かにどれも欲しくなる美しさと可愛さ、そして手頃なお値段で、正直とても驚いた。京都ならこの倍の値段で売っていると思う和菓子や、東京ならこの1、5~2倍は取るであろうという洋菓子の価格だ。本店は種類も豊富で、一通りすべての商品を見てみたが、どれも本州の真似事に終わらずオリジナル色が出ていて北海道人の私としても誇らしかった。あずきや乳製品などの産地が近いからこの値段にできるのかはわからないが、安いからといってサービスが悪いなどということは全くなく、セルフで飲める無料のコーヒーがあったり、店員さんは誰もが紳士淑女の佇まいだった。帯広まできて思いの外この柳月本店に来られたのが私の最大のうれしい発見だった。

柳月で東京に残る夫にお土産を買うと、雪が雨になった帯広を後にして宿泊地の幌加温泉の『鹿の谷』へと向かう。来た国道を北上するにつれて雨が雪に変わり、徐々に寒い地域へ移動していることを実感しながら乗車すること2時間。ふらふらになりながらも母は運転を続け、『鹿の谷』にチェックインできた。その後部屋に入ると母がごろんと疲れを布団に吸い取らせたことをは言うまでもない。この日も頑張る母だった。

しばらく休んだ後に入った温泉は最高だった。三度目の宿泊になるのだが、露天までの道が暗いために露天は断念したものの、内風呂だけでも十分疲れが流された。6月来たときよりも湯温が低く感じたが、じっくり長湯できてそれはそれでよかった。ただ、女性用内風呂の硫黄の湯だけが入れないほどに熱かったので、ここはかけ湯だけにした。因みに客は他にいなかったようで、私と母の貸切状態だった。

こうして疲れを癒し、この日の旅を終え眠りについた。