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2011年6月18日土曜日

鶴岡散策・丙申堂

申年に建てられたことからこの名がついたという丙申堂は旧風間家住宅で、鶴岡公園そばの東側に位置し、ちょっと見渡すと荘内銀行本店の大きな看板が見える。


この日は酒井家が藩主だった鶴岡城の跡地になる鶴岡公園を中心に観光しようと目的を定めて、私は朝一で駅併設の観光案内所で昨日同様無料の観光用自転車を借り、鶴岡公園に行く途中で目に入った丙申堂にひとまず立ち寄ることにした。

門を入るとガイドの方が建物を案内してくれるという。

この丙申堂には藤沢周平原作の映画『蝉しぐれ』の舞台として使われた部屋がある。やはり鶴岡といえばどこへ行っても周平である。入り口から入って奥の方の部屋だったと思うが、そこには映画のワンシーンの写真が飾られていた。江戸時代を描く周平原作の映画らしく、写真には市川染五郎と、あの大根役者で名の通る木村よし乃が和服姿で映っていた。演じる女優が木村よし乃であることをどう思うかと藤沢周平に聞いてみたかったが彼は今は亡き人である。

よし乃はいいとして、風間家は酒田の本間家に次ぐと言われる大商人で、金融業もやっていたのだが、それが市内各地に支店が並ぶ現在の荘内銀行の前身だったとは知らなかった。敷地内からすぐそばには荘内銀行本店の大きな看板が見えるので、ガイドの方も心なしか説明しながら誇らしそうだった。

そして我々は、絶対に上がらなければならないわけではないが、とうとう建物2階部分へと上がることとなった。このような旧商家などでは2階を見学できないことも多いが、ここ旧風間家は御覧なさいと上げてくれる。そして私は旧家独特の急な階段をガイドさんに続いて上るのだが、そこはわりと広い畳の部屋だったと思う。何に使われていたのかは忘れてしまったが、その後このガイドさん、60歳をとうに過ぎていると思われるというのに、急な階段を自分の家のようにスタスタと手すりを頼ることなく下りていくのである。この全身で覚えた家の感覚、きっとこの人は目をつぶっても旧風間家を案内できるだろうと私は確信したのだった。

もう一つある階段の上の部屋は大工部屋だったとか。当時は八畳間に3人の大工が常駐していたという。大工部屋の手前の1階には台所があり、そこは耐震用にトラス状の梁が張り巡らされ、当時としてはとても自慢だったようだ。

この建物の屋根は、恐らく金持ちとはいえ士族ではなく商人だったからっだと思われるが、酒田の鐙屋の屋根と同じく石置屋根で、20年に一度下に敷かれる杉皮も防水シートもすべてとり変えられるとのことである。大量の杉が必要なのだが、昨日上った羽黒山には杉がいっぱいあったなあと思い出した。

丙申堂に来る途中の日枝神社


丙申堂内の、映画『蝉しぐれ』で撮影に使われた部屋

石置屋根

台所
耐震補強のトラス状の梁が名物とか

金庫
よく見えないが、鍵の部分が数字ではなく
「いろはにほへと」になっている

大工部屋への階段

別邸である釈迦堂の庭
ここは以前までは水のある池だったのだが、
地面が割れて水がたまらなくなり(理由を説明されたが忘れた)、
こうして枯山水のようになっている


ここ旧風間家は、戦時中は疎開先として都会の空襲にあう人々を受け入れていたという。それ以外でも学生の下宿先として提供したりもしたらしい。時代が変わり、小作人を家に呼び集めたり商売相手を宿泊させる必要がなくなると、余った部屋を違った利用の仕方で提供してきたのだ。そし現在はそのあり方を一般公開している。

東日本大震災で被災した方たちも、そんなふうに疎開先を見つけて新たな活路を見出してほしいと思えた旧風間家・丙申堂だった。