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2011年8月11日木曜日

再び鳥がなくとき

葦簾のかかるベランダの日陰に温度計を置くと35度。数日この暑さが続くと、どんなに冷房をかけて部屋を涼しく保っても、コンクリートからの放射熱が身体に染みこんでくるらしく、身体は朝から気だるい。

それでもベランダの向こうに望むサッカー場では高校生くらいの若者らが灼熱のなかでサッカーボールを追いまわして動き回っていた。それはしばらくして私がベランダを覗いたときにも変わらぬ光景で、通りには他のグラウンドで野球でもしていたらしい小学生や中学生が、コンビニで買ったところのドリンクを片手に薄汚れたユニフォーム姿でダラダラとうろつくように歩いていた。

そんな折、遠くの方でゴロゴロと雷が始まった。その遠くの雷は、舞台を盛り上げるように雷光を前触れに音を大きく響かせながら徐々に近づくと、ある瞬間から大粒の雨をもたらし始めた。

この雨の威力はすばらしく、炎天下のなかサッカーに励んでいた若者や、通りを徒歩や自転車で移動する市民らを一斉にどこかの建物に押しやり、外界は人っ子ひとりいなくなった。

私は再びベランダに出て手を屋根の外に出すと、外気の暑さとは比べものにならない冷たい雨が降ってくることが不思議になり、岩盤浴の岩盤のように暑くなったこのベランダのタイルを少しは冷やしてくれるだろうかと期待しながら部屋へと戻った。

部屋では猫が雷に怯えてテーブルの下で丸くなっていた。それも数十分後に雷がおさまり、その後雨もやんでしまうと、猫は知らず知らず身体の緊張がとれて、熟睡体制に入った。

雷の到来と共にすっかり薄暗かった空からは、雲の隙間から光が射し始めた。もっと雨が降り続けばいいのにとの私の期待はここで萎むのだけれども、それとは反対に雨が過ぎ去ることを待っていた人のほうが多いようで、サッカーグラウンドには再び若者が戻り、往来にも人が戻ってきた。

すっかり声をひそめていた鳥たちも、どこからともなく出てきてはそれぞれの鳴き声を響かせ、互いに連絡を取り合い始めた。それは春の訪れのように明るかった。

私はそんな鳥たちの声に励まされるように、雨によりほんの気持ちばかり涼しくなった外の世界へと出ていった。