ページ

2010年6月1日火曜日

『語りかける風景』 ザ・ミュージアム


Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の「語りかける風景」です。
「語りかける」人は、描く風景を選んだ画家のことです。
フランスとドイツの間で翻弄され続けたフランス・アルザス地方にある
ストラスブール美術館の所蔵の風景画の数々です。


風景画の始まりは15世紀のイタリアで、
今の風景画ができあがったのが19世紀とのこと。
産業革命を経て、自然の風景も都市の風景も変わりました。

今回の展示ではいくつかのテーマに分けて展示されてました。

窓からの風景コーナーの絵に描かれている家の中の人物はみな女性でした。
この時代、家の中でほのぼのと過ごすイメージとして画家が選んだのは
女性だったようです。

人物のいる風景コーナーでは、
ギュスターヴ・ブリオンの「女性とバラの木」が好きでした。
ちょうどバラの季節だからかもしれません。
モーリス・エリオの「年老いた人々」も好きでした。
一番向こうに労働する人、真ん中に小さな女の子、
手前に老人という構成は、とても明るい色彩で描かれているのですが、
田園風景のなかに3世代こういうかたちで描くという視点が面白かったです。

都市の風景コーナーでは、ジャン=バティスト・カミーユ・コローの
「オルレアン、窓から眺めたサント=パテルヌの鐘楼」に
何気なく猫が描かれていました。
猫好きの私の目にはついつい止まってしまいます。
マルタン・ユーブレヒトやアンリ・マルタン、モールス・ド・ヴラマンクが
セザンヌの影響を受けているというのが、
セザンヌの番組を最近見たばかりの私には興味深かったです。

水辺の風景コーナーでは、
アンリ・ジュベールの「ジェノヴァ港の入口」の海の濃い緑色が、
どこかで見たような海の色に思えて親近感がわきました。
マックス・エルンストの「暗い海」は、
私が海に持ってる怖いイメージと全く同じと言っていいほどに
重なるものがありました。
因みに海景画は17世紀のオランダで始まったそうです。

以前Bunnkamuraで見たロシアの絵画を集めた展覧会は、
いかにもロシアというような雪景色にちょっと暗めの印象だったのですが、
やたらと明るい色彩のナタリーア・ゴンチャロワ「家禽のいる庭先」と
ミハイル・ラリオーノフ「陽光を浴びる日々」は、
同じロシアでも全く違います。
こちらの二人は20世紀前半の前衛運動の担い手だと知って納得しました。

風景画と一口にくくっても、
それぞれの画家は必死にテーマを追求し、技巧を磨きます。
そして独特の色彩や構図を用いて、自己の内面を主張するのですが、
趣向を凝らさないただのうまい絵は「没個性的」と解説されてました。
カルル・ロットマンの「バイエルンの風景」です。
この絵はつまり、時代を小気味よく反映した絵画や、
独自色豊かな絵画との比較のために展示されていたのかなんなのか、
最後まで疑問でした。

風景画といっても様々な変遷を経ていることがわかって
とても勉強になった『語りかける風景』でした。