東京の国立近代美術館よりは空いているだろうと期待して午後二時過ぎに行ってみると、まったくそんなことはなく、途切れることなく絵の前に客が並ぶ人気の『パウル・クレー展』だった。
この展示は、クレーの絵がどのようにつくられたかに焦点をあてて構成されたものだったが、私はクレーの描く絵画の線を一つ一つ追って見ていくのが、物語を読んでいるようで楽しかった。美術館で絵を見るのは二ヶ月以上ぶりだったこともあり、全部見終わった頃には頭がすっきりしたような爽快感があった。そして私が最も気に入ったのが『山への衝動』であり、それは比叡山に行きたいとずっと思っていた私の衝動を描いてくれたかのように思えた。
この日は仁王門通り沿いにある『オ・タン・ペルデュ』 というレストランでランチを食べ、食事のおいしさに満足したところで美術館に行った。美術館からの帰りはこのレストランの前を南下し東山駅に戻ったのだが、ここには白川というきれいな水の浅い川が流れている。そしてこの川沿いで、昨日の鴨川に続き再び猫と出会うこととなった。白黒の猫ちゃんはとてもスリムで、私が近づくと案の定逃げいくのだけれども、どうやら飼い猫のようで、自分の家へと戻ったようだった。
戻る家がある猫とない猫の違いってあるのだろうかと考えながら、雨が降ったり止んだりの帰途についた。そういえばゴールデンウィークの始まりの頃、新幹線で東京から京都に向かうとき、名古屋の駅のホームで我が家の猫同様飼い主と共に里帰りすると思われる猫を見かけて、福島原発から放たれる放射性物質のストレスですっかり滅入ってローテンションだった私の目が一気に開いたことを思い出した。30才前後の男性がキャリーケースに白黒の猫ちゃんを入れて肩からケースをぶら下げ、行き来する新幹線に猫が驚かないように窓のところを手で押さえていた。
我が家の猫は東京からの長距離移動を私の勝手で強いられ不満そうであった。そしてその日から数日たった今日、野良で自分の自由に生きるのと私と一緒にいるのとどっちがいいか聞いてみると、まばたきをして答えるのだった。そしてそのまばたきの意味は、恐らくもう眠いだと思う。よくよく考えれば、野良猫にもテリトリーがあるのだから帰る家がない猫などいないはずか。
オ・タン・ペルデュのランチ
キッシュがとてもおいしかった
白川沿いの猫
近づくとこうして逃げていく
以下5月の京都市内で咲いていた花
シバザクラ
アカバナトキワマンサク
ヒラドツツジ