ゴールデンウィークに宿泊した京都郊外の農家のおばあちゃんの90度に曲がった腰について。
その後の聞き取り調査によると、あの曲がった腰は、腰の骨が砕けているために伸ばせないのだそうだ。手術するとそのまま寝たきりになる可能性が高いので、曲がったまま生活しているという。砕けているとは聞いただけで痛々しいが、それでも本人は農作業を続け、一日きっちり三食食べ、自律的生活をしている。
そんなおばあちゃんの武勇伝をここで紹介させてもらいたい。
この農家ではおばあちゃんと、息子夫婦(60代)と孫ひとり(30代)が同居している。一見のどかな田園地帯の三世帯同居のなかで、ある日おばあちゃんに異変が起きた。
この日もおばあちゃんはいつものように水田を見に行った。そしてその時事件は起こった。何かの拍子に手のどこかを骨折してしまったのだ。私だったらギャーギャー騒ぐであろうこんな瞬間にも、このおばあちゃんは同居する誰にもこのことを知らせず(みな仕事などで家にはいなかった)、自分でタクシーを呼び、病院に行き、家族が帰ってきたときにはギプスを巻いて腕をつっている姿を突如見せて驚かせたという。本人曰く、迷惑かけても悪いからとのこと。
また別のある日、別の事件は起こった。
昔からの因縁があるらしい本家の庭の花を、おばあちゃんは何をムシャクシャ思い出したのかへし折り、それを本家の人に目撃され通報された挙句、警察に尋問されたという。一連の経緯を聞いた警官は、本家と分家の痴話喧嘩ということで特に何するでもなく、おばあちゃんは罰を受けたわけではないが、この事件は近所中のスキャンダルとなったはずである。寝る時でも鍵を開けっ放しにするほどに治安の良いこの辺りは、その閉鎖性故によそ者が入ってくることもなく(入ってきてもすぐに近所中に広まる)、ある種の平和性は保たれているのだが、本当に人の流動性がない停滞した地域である。警察沙汰など、暇なおじさんおばさんの格好のネタとなったに違いない。それでも何食わぬ顔して87歳になっても水田を見まわる肝の座ったおばあちゃんなのだった。