ページ

2010年10月15日金曜日

ゴッホ展

国立新美術館で開催中のゴッホ展に行ってきました。没後120年を記念しての展覧会だそうです。平日でしたが思っていたより混雑がなく、わりと余裕をもってじっくり見ることができました。ゴッホを見る機会はこれまでにもたくさんありましたが、今回は・・・。

ゴッホが本腰を入れて絵に取り組むことを決めたのが27才。37才で亡くなるまでの10年間であれだけの絵を描いたことにまず驚かされます。絵に取り組むうちに理性を失ったと弟テオに手紙を書いたようですが、その姿勢がよくわかる作品の数々です。今回は時系列的にⅠ~Ⅵ章に分かれているのですが、それぞれ気になったところについて。

パートⅡでの展示にある『掘る人』シリーズは、農民のきつい労働への共感を表現しているとのことですが、農民が背中を丸くして作業している姿に、それを描いたゴッホの優しさが感じられる気がします。共感するならあんたも耕しなはれと思ってしまうところですが、絵描きと自らをみなすゴッホはやはり絵でそれを表現するんですね。

最近、軍艦島に行ったり北海道の旧炭坑町を訪れたりしたことが影響してか、『石炭を掘り出す坑夫』にも興味を持ちました。マシュー・ホワイト・リドリーの原画によるものですが、そこには馬も描かれていて、馬が労働力として用いられていたのがよくわかります。現在チリ鉱山での救出が話題になってますが、絵のなかで描かれているのを見ると坑道はそれほど狭くないようです。でも満タンに積まれた石炭の箱や石炭の壁を叩き割る坑夫の姿からそこでの重労働が伝わってきます。

Ⅲに出てくる「じゃがいも」の絵は、ものすごく生き生きとしたじゃがいもが描かれています。ゴッホのじゃがいもは初めて見ると思うのですが、私はゴッホのなかでも相当好きな絵になりました。

あのゴッホらしい明るい色彩の絵画群は晩年の2~3年に描かれたもので、それらによってモダン・アーティストとしての地位を今日確立しているというのがⅤとⅥ章です。南仏のアルルに移ってからの時代です。ゴーギャンとの共同生活の終わりを告げた「耳切り事件」もこの頃です。絵画のスタイルがゴッホらしさを極めるにつれ、精神的に追いつめられていったというのは皮肉ですが、絵を描くことに人生を捧げることを決意したゴッホはこうするしかなかったのかとも思います。
 
概ね独学だったゴッホですが、年代が上がるにつれ、ゴッホらしさが増すにつれ、より繊細で神経質な内面が筆先に乗ってきてるように思います。

エネルギッシュでありながら、はかなく脆弱さの見え隠れするゴッホでした。