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2010年4月17日土曜日

指揮者の仕事

「政治家と指揮者は長生きらしいよ」との話を小耳にはさんだことがあるのですが、やりたいことをやりたい放題やってるからというのが理由だそうです。でもそれは、本当にやりたい放題やって長生きした人にのみ当てはまることではないでしょうか。

私は最近、西本智実という女性の指揮者に注目してます。
彼女は現在40歳。日本企業の会社員なら中間管理職という年頃ですが、紹介では「若手指揮者」とされます。大阪音楽大学作曲科卒業後、国立サンクトペテルブルク音楽院にて修行して、28歳から指揮棒を振り始めたそうなので、12年のキャリアです。でも若手。
クラッシックの音楽界は独特の伝統的な考え方があるそうで、ベルリン・フィルは1982年、ウィーン・フィルは1997年にようやく初の女性奏者が入団したそうです。(因みに日本人としては岩城宏之が初めてウィーン・フィルを指揮したそうです。)
ベルリン・フィルは、1982年、あの帝王カラヤンが、オーケストラの大反対を押し切って、女性クラリネット奏者ザビーネ・マイヤーを強引に入れたのですが、マイヤー自身がいたたまれなくなったのか、自ら辞めたそうです。ウィーン・フィルの場合は、なんと「ハプスブルク家支配下地域出身の男性」のみで構成されていたくらいなのです。排他的集団です~。伝統を重んじてとの理由だとか。でもそれを知ると、ああアメリカって色々あるけど、やっぱり自由で、才能が集まる国なんだなとつくづく思います。
因みに西本智実は現在ベルリンに拠点を置いてるらしいです。

オーケストラというのは個性的で一癖も二癖もある職人集団のようなもののようで、「あんた、どこのだれ? どんなもんかみせてもらおか。」といった感じで、特に若手指揮者は試されいびられるのが当たり前だそうです。西本、負けるなよ~。
だから指揮者は一挙手一投足が緊張の連続。ストレスで指揮者は二年が限界ともききます。それで指揮をやめて楽器奏者にまわってオーケストラの一員になったら、確かに指揮者をいびりそうですが・・・。自分がなれなかったものになってるコイツが憎い~というところでしょうか・・・。美しい音楽も、演奏してるのは生身の人間なんですね。
そんななか、名指揮者トスカニーニとカラヤンはどうしてたか。
トスカニーニの場合:全員の前でよく注意し、怒り、ときによっては出て行けと怒鳴ったそうで、相当に独裁的なワンマンぶりだったそうです。それでも、彼が指揮する音楽が素晴らしかったから許されていたようです。
カラヤンの場合:非常に民主的な方法をとりその人を傷つけない。たとえば、練習で第二ホルンの音程が悪いとすると、パッとオーケストラを止めてヴァイオリンのほうに向かって自分の解釈を伝えてこうしてくれと注文するそうな。そうしながら、ホルンの第一奏者に向かって目配せをするそうです。だから楽員から凄く人気があったらしいです。
人気があったりなかったりとはいっても、有名音大を出て有名楽団に入ったプライドの高い楽員にとって、他者のいうことをきくことは、腹の立つこと。それなら自分がやればいい、それができないから余計腹が立つの泥沼心理。一般的には、何をされても、オーケストラの前で涙を流すのはダメだそうです。オーケストラを喜ばせるだけ・・・なんと醜悪、でも事実。指揮者は一人で部屋で泣く仕事だそうです。恍惚と不安、圧倒的に不安の方が多いではないですか~。だから新人指揮者は辞める人が後を絶たないとか。
加えて指揮者は演奏会後にVIPと社交しなければならないそうで、これも大変だとか。

そんな中、指揮棒を捨てない西本智実。それだけでも十分見所のある人と思います。

私は2010年1月31日、東京オペラシティコンサートホールで開催された「西本智実 with ラトビア国立交響楽団 ピアノ:ウォニー・ソン 」に行って参りました。その際、打楽器の一人が楽譜を落とし、悠長にひろってまた演奏を始めたりと、楽員は確かにマイペースです。指揮者西本とソロピアノのウォニー・ソンは緊張しまくってるのに、楽員は客席を眺める余裕があります。これをまとめるのは大変でしょう。でも、よくやってたと思います。

ずっと同じ指揮者だとオーケストラが飽きてくるらしく、大体2年くらいで指揮者は変わるそうです。入社してしまえばあとはおんぶに抱っこで給料もらえるもんというような、日本の大企業と同じカラクリが伝統あるオーケストラには未だ働いているように思います。批判はたくさんあるようですが、なかなか変わらないのが現実のようです。でも日本企業はもうそんなに甘くないか(経営が厳しくて)・・・。

日本からロシア、ヨーロッパ、アメリカへとの志をもっているという西本智実さん、頑張って下さい。新兵いじめに負けないでね~。